hitomi's poetry
想い出綴り−47 ボトル・キープ
cici
 立春を過ぎてもまだまだ厳しい寒さが続いているが、それに加えてその夜は寒風と雨がきつかった。
 そのような日は往々にして店の客足は遠のく。
 暇を持て余した私はカウンターのバック棚を整理したが、暫らくして棚の奥からかなり古い焼酎のボトルを見つけた。
 ボトルに書いてある名前を見ると、10年ほど前に瞳の友人が来た時にキープをしてくれたボトルだった。
 その当時は瞳が亡くなったのをきっかけに、多くの瞳の友人や知人が店に来てくれたのを覚えている。
 顔見知りの人もいたが、ほとんどは初めて目にした顔ぶれで、なんて優しい人達だろうと感心したものだ。
 地元の人はもとより、遠く市外や府外からも足を運んでくれた人もいて、いつも感謝の気持ちで胸がいっぱいになった。
 こんなにいい人達を友人・知人に持ち、瞳も幸せだったに違いないと思う半面、早世した瞳が不憫(フビン)でならない。
 瞳の思い出話を酒の肴にして夜遅くまで話し込んだり、瞳が好きだった歌を唄ってくれたのをしみじみ思い出す。
 あれから10年、市外へ引っ越しをした人、遠くへ嫁いで行った人…、歳月と共に様々な理由で殆んどの人が来られなくなった。
 古い焼酎はもう飲めないだろうが、このボトルを見る度に当時の光景が目に浮かび、懐かしさに酔いしれる。
 あの時の思い出に、これからもずっとボトルをキープしておこう。


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