hitomi's poetry
想い出綴り−64 赤色のマニキュア

cici
 若い女性客のA子ちゃんのグラスを持つ手に、鮮やかな赤がチラチラと視界に入った。
 彼女のほっそりとしたしなやかな指先に真っ赤なマニキュアが施されていた。
 
 「赤色のマニキュアは初めてやね。情熱的やなあ」
 「赤色のマニキュアを塗ってみたかっただけで、私は情熱的ではないよ」
 「指先美人やね」
 「指先だけか〜」
 「いや、A子ちゃんはべっぴんやで。ただ赤色は指先に華やかさをプラスするだけでなく、女性の手を美しく見せてくれるわ」
 「赤色のマニキュアは、見るたびにときめいて嬉しい気持ちになるの」
 「赤色のマニキュア、塗って良かったやん」

 そういえば瞳の遺品を整理していた時に様々な色のマニキュアを見つけた事があった。 
 瞳はオシャレには人一倍興味を持っていて、帽子、衣服、小物など、かなり沢山の遺品があって片づけるのに手間取った。
 その中にあった化粧箱に並んだ小瓶を見ながら遠い過去を振り返った。
 よく見たのはさくら貝の様なピンク色のマニキュアだった。
 ピンク色のマニキュアについてネットで調べると、次の様なコメントが載っていた。
 「美の女神ビーナスの色。優しさ、可愛らしさ、柔和、上品、気配り、女性的な若々しさを意味しています。生理不順などの婦人科系疾患、イライラにも効果的です」
 私と妻は仕事や用事で忙しくしていて、瞳にはあまり構ってやれず悩みも聞いてやる事が出来なかった。
 その寂しさやストレスを緩和させる為にピンク色を塗っていたのかな、と推測した。
 時々ではあるが、週末や結婚式や同窓会の時には真っ赤なマニキュアを塗っていた。
 「若々しさ、能動的、積極的、自発的、外交的、楽天的になれます。血行不良、貧血、低血圧、やる気が起きない時には赤を選ぶと効果的」とある。
 あの時は、普段の満たされない気分を転換する為に赤色のマニキュアを塗っていたに違いない。




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