悲しき雨音


 梅雨時、コロナ禍の巣ごもりで窓を少し開けて本を読んでいると、雨の音が途切れることなく耳に入ってくる。
 穏やかな雨ならばこれはこれで風情があって心が癒されるが、時々豪雨にさらされて不安になることもある。 
 毎年この時期になると必ず思い出す音楽が、1962年にリリースされたザ・カスケーズの『悲しき雨音』だ。
 突然の雷鳴と雨の音とビブラフォンのイントロで始まるメロディーが、58年経った今でも耳に囁きかける。
 ちょっとセンチなメロディーとハーモニー二に触れていると、16年前の6月の下旬に緊急入院をした娘を思い出す。
 この曲の歌詞の内容は、片思いのまま彼女に振られた想いを雨に語りかけた、たわいもない内容である。
 しかし私にとっては大切な娘が、生還して欲しい希望と去ってしまう不安とのはざまで心が揺れ動いていた。
 妻と共に懸命の看病したが、願いもむなしく娘は1カ月あまりの闘病の末に25歳の若さでこの世を去った。
 「雨よ、いつまでも私の心の中で育んでいることを、愛する娘に伝えておくれ」
 降り注ぐ雨の音が、私の訴えをかき消しているような気がしてならない。

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