hitomi's poetry
想い出綴り−38 ボジョレーヌーボー 
cici
 もみじ狩りの季節の訪れと共にボジョレーヌーボーの解禁日がやってきた。今年は11月15日だとか。
 ワイン好きにはたまらない一日だろうが、私はビール党なのでワインには関心がなかった。飲めと言
われれば飲むが、美味しいと味わって飲んだことがなかった。だから目を閉じて飲むと白も赤も分から
ない。白黒つけられない。
 だが、9年前のある日、娘が「お父さん、一緒に飲も」と1本のワインを買ってきた。
 「なんや、ワインかいな。お父さんはワインは飲めへんわ」
 「これ、ボジョレーヌーボー言うて、若い子はみんな飲んでるで」
 「へえ、これがボージョレヌーボかいな。名前は聞いたことはあるけど飲んだことないわ」
 「ボジョレーヌーボーやで。いっぺん飲んでみて」とグラスに一杯注いでくれた。
 「どう?」
 「そうやなあ、軽やかで思てたより渋みがあれへんなあ」
 その夜は娘がワインと一緒に買ってきたフライドチキンとポテトフライをアテに妻と三人でボジョレーヌ
ーボーを飲み、至福のひとときを味わった。
 その翌年の8月に娘は肺を患い25歳で他界、それ以来ビール党の私はワインを飲むことは無いが、
解禁日の時期になると娘が最初で最後に奢ってくれたボジョレーヌーボーのホロ苦くもやさしい口当
たりが脳裏をかすめる。


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