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今年もまた、この季節がやってきた。朝起きて窓を開けると冷たい春の空気とともに鼻の奥をくすぐる何かが忍び寄る。目がかゆく、くしゃみが止まらない。花粉症の始まりである。
春という季節は本来ならばもっと陽気に迎えられるはずなのに、私にとっては憂鬱な戦いの始まりだ。耳鼻科に行けば待合室には大勢の患者で2時間待ち。薬局に行けば花粉症対策コーナーが設けられ、マスク、目薬、鼻炎薬がずらりと並ぶ。それを眺めながら、「ああ、今年もこの季節が来たのだな」と半ば諦めの境地に至る。
当店でも同じように目を真っ赤にしているお客や、鼻をすすっているお客がいる。その人たちに妙な連帯感を覚える。「今年の飛散量は多いらしいね」「そうですね、もう大変ですよ」そんな会話が毎年この時期の定番となっている。
花粉症になったのは確か、厄年を迎えた頃だった。最初はただの風邪かと思っていたが、毎年同じ時期に同じ症状が現れることに気づき、ようやくそれが花粉症だと認識した。それ以来、春の訪れを喜びつつも花粉に苦しむようになった。
そんな花粉症の思い出の中に娘の姿がある。彼女もまた、ひどい花粉症に悩まされていた。「お父さん、目がかゆいよ」「鼻が詰まって寝られない」と、涙目で訴えてきたあの日々が懐かしい。二人してマスクをつけ、薬局で新しい目薬を試しながら、「どれが一番効くかな」と相談したこともあった。花粉に負けじと、あちこち出かけた春の日々。娘の笑顔がまるで昨日のことのように目に浮かぶ。
今はもう娘と花粉症対策の話をすることはできないが、春風が吹くたびに娘と過ごした時間がふとよみがえる。
「お父さん、花粉の季節が来たね」——そんな彼女の声が聞こえた気がして、私はそっとマスクをして、今日も春の街へと歩き出す。
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※慕嬢詩(ボジョウシ)=亡くした娘を慕う気持を綴った詩・文。私の創作語。
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