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道沿いの桜が静かに散り、代わるようにツツジが鮮やかに咲き始めた。季節は春の名残を残しながら、確かに初夏へと歩みを進めている。
君がいたら、この景色をどんなふうに見ただろうかと、ふと考えながら私は今日もこの道を歩く。
川辺では、色とりどりの鯉のぼりが風に吹かれて泳いでいた。大きなもの、小さなもの、家族のように連なって、青空を背に気持ちよさそうにたなびいている。その光景を見ていると、あの笑顔を思い出す。幼い君がまだ手を引かれて歩いていた頃、目を輝かせながら「お魚が空を飛んでる!」と喜んでいた。
あれから何年が経ったのだろう。君が旅立ってから何度目の5月だろうか。
季節は巡る。花が咲き、風が吹き、太陽がまた私たちを包む。でも、君のいない春は、やはりどこか少しだけ色が薄い。風が吹くたびに、その中に君の声を探してしまう。花が咲くたびに、心をときめかせていた君を思うと心の奥にそっと影が落ちる。
けれども、このツツジの鮮やかさや鯉のぼりのたくましさにどこか救われる私もいる。君が見ていた世界は今も美しく変わらずにここにある。君がもう見られないものを、私はこの目に焼きつけながら歩いていこう。風が優しく吹いた。まるで、君の手が背中を押してくれるように。
ふと立ち止まり空を見上げた。どこかで君も同じ空を見ているような気がした。
見えないけれど確かにそこにいて、私の歩みに寄り添ってくれているような…。そんな静かなぬくもりが、胸に広がっていった。
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※慕嬢詩(ボジョウシ)=亡くした娘を慕う気持を綴った詩・文。私の創作語。
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