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私は自他ともに認めるカーマニアだ。よくドライブに連れて行ってくれた兄の影響もあり、小さい頃からカー雑誌に夢中になっていた。
そして18歳で普通免許を取得し、さっそく兄の車を借りて乗り回した。高校卒業後はカーディーラーの整備士となり、初めての給料で勤務先の車をローンで購入。若い頃は寝ても覚めても車の事ばかり考えていた。
好きが高じて、これまでに十数台もの車を乗り継いできた。若者がうらやむようなオープンカーから、「いつかはベンツ…」と憧れていた車はだいたい乗った。思い残す事のないカーライフを歩んできたと思っている。
そんな私も古希を迎えた頃、妻から「年寄りの運転は危ないから」と、マイカーを手放すように言われた。以後、週1回の仕入れの時だけカーシェアを利用するようになった。
それでも最近は高齢者の事故のニュースが目立つようになり、喜寿を迎えた今、妻はさらに「仕入れは自転車で行ける範囲にして」と言った。ついに車の運転そのものを差し止められた。
免許がなければ車は買えない。全自動運転の車が実用化されるまで待とうと思っていたが、「いつになるか見通しが立たへんやろ」と、あっさり一蹴された。
嫁さんよりも長い、69年間も連れ添った免許証を手放すのは、やはりどこか心にぽっかり穴があいたような淋しい気持ちになるが、もしもの事があれば取り返しのない事態になる。
娘は車好きの私に似て18歳になって直ぐに免許を取り、ドライブを楽しんでいた。けれども、彼女のカーライフは7年という短いものだった。
もし、娘が今も生きていたら──。
彼女の運転で、もう一度乗ってみたかったオープンカーの助手席で、爽やかな風を受けながら二人で車の話に花を咲かせているかも。
そんな淡い夢をみながら免許を返納するのに腹を決めた。
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※慕嬢詩(ボジョウシ)=亡くした娘を慕う気持を綴った詩・文。私の創作語。
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