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「こんなんまだ取ってたん?」と、大掃除を手伝いに来た娘は照れたように笑い、少し呆れた顔も見せた。
私は「ほったらかしにしてただけや」と軽く答えたが、本当は違う。
捨てられずにいた理由は、どれもこれもが、娘と過ごした時間そのものだったからだ。通知表一枚、お絵かき帳、折り紙一つに、その年、その季節、その時の娘の声や表情が染み込んでいる気がして、手放す決心がつかなかった。
娘はもう立派に自立し、自分の暮らしを営んでいる。それでも、この部屋に残る品々は、親としての私が確かに「育てていた時間」の証だった。
机の引き出しにかける手が、自然とゆっくりになる。過去を片付けているつもりで、実は自分の気持ちの整理をしているのだと、その時ふと気づいた。
「いるもんと、いらんもん、分けとこか」
娘のその一言に、少しだけ胸が熱くなった。残すか、手放すかを決めるのは、もう彼女自身なのだ。
さあ、明日から本格的に大掃除を始めよう。今年一年を無事に過ごせたことに感謝しながら、家のあちこちを整えていく。
思い出までは無理に磨かなくていい。埃を払う程度で、ちょうどいい。
そう思いながら、私は今は亡き娘の部屋の窓を少しだけ開け、年の瀬の冷たい空気を部屋いっぱいに入れた。
※慕嬢詩(ボジョウシ)=亡くした娘を慕う気持を綴った詩・文。私の創作語。
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