●慕嬢詩『光の春』




 「早く春が来て欲しいね」。そう語りかけていた寒がりの君が隣にいなくなって、二十二年の年月が流れた。
 もうすぐ「立春」なのにまだまだ厳しい寒さが続くが、空の色はもう一月のそれではない。ロシアではこれを「光の春」と呼ぶそうだ。
 二十二年前の春、娘が旅立って半年にもなるのに悲しみを引きずってた私の部屋にも、同じように光は差し込んでいた。
 カーテンの隙間から伸びてくるその光が、どうしようもなく眩しく、残酷にさえ感じられた。
 「なんで、こんな時に春は来るのか」と、光そのものを責めるような気持ちだった。
 あの日、窓辺で眠る娘の肌にも、淡い春の光が触れていた。白く、柔らかく、あまりにも静かな光。
 世界が音を失ったような部屋で、その光だけが確かに存在していたことを、今もはっきり覚えている。
 それは慰めでも希望でもなく、ただ「そこにある」というだけの光だった。
 けれど、二十二年という時間は、不思議な薬を私に与えてくれた。
 同じ季節、同じ角度から差し込む光を、今の私は「温かい」と感じている。胸の奥に、かすかなぬくもりを残していく光として、受け止めることができている。
 でも、悲しみが消えたわけではない。
 ただ、光が刺さるものではなく、包むものに変わった。その変化の中に、私は娘が遺してくれた愛の形を見る。
 言葉にできなかった想い、触れられなかった未来、そのすべてが、時間をかけて光に溶け込んでいったのだと思う。
 「ねえ、もうすぐ立春だよ」
 空は確かに、春の色を帯びてきた。この光の中で、私は今日も生きている。娘が教えてくれた「温かさ」を、忘れずに抱えながら。


※慕嬢詩(ボジョウシ)=亡くした娘を慕う気持を綴った詩・文。私の創作語。
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