●慕嬢詩『五月病』

桜の花吹雪が過ぎ去って若葉の緑に包まれる、初夏の気持ちのいい快適な季節になってきた。肌寒さから解き放たれた今が一年の中でいちばん好きだ。
けれど、サラリーマンになりたての頃の私は、この同じ季節がどこか嫌だった。理由のわからない不安と憂鬱に包まれ、心がふわりと地に足のつかない感覚に揺れていた。
昔は五月病と言う呼び名はなかったが、気温の変動で体調が崩れやすく、生活リズムが乱れると睡眠不足になる。4月からの環境変化によるストレスで体も心も疲れやすくなる。現在はこれを「五月病」と呼ぶが、その揺らぎを、当時はただ持て余すしかなかった。
時は巡り、娘が社会人になった春。同じように心を乱していたはずの娘に、私は自分自身の新社会人時代の体験を忘れて、小言を重ねてしまった。若気の至りで、寄り添うべき時に遠ざける言葉を選んでしまった自分がいた。
五月病の言葉を聞くと、あの頃の自分と娘の姿が重なる。「あの一言を飲み込めていたなら」と悔やむ気持ちは消えない。それでも、この胸の痛みこそが、遅ればせながら娘を想う証だと信じたい。
揺れる季節の中で、人は少しずつ優しさを学んでいくのだと思う。 |
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