hitomi's poetry
想い出(つづ)り−1 白崎海岸に連れてって
(towa+cici)
まだ、夏が来る前の ある休みの日、
「和歌山に連れてって」 瞳から電話があった。
「急に海を見たくなった」らしい。
車は目的地へ向け 阪和道をブッ飛ばす。
ラジオには 台風6号の上陸の情報が流れていた。
海南ICを降り 湯浅御坊道、国道42号線を経て、「里」交差点。
そこを右折し 西へ約7kmで白崎海岸に着く。

「ここは3年前にライブで来たとこや。もう一遍(いっぺん(来たかったけど、行き方がわかれへんかってん」
瞳の声は弾み、目は輝いていた。
ハマユウが咲き、(あお(く澄んだ海と空、白い雲と岩のコントラストが美しい海岸で有名。
白崎海岸公園の展望台に上がると270度の海が眺望(ちょうぼう)できる。
地元の釣り人にも人気の高いポイントで、春先にはアオリイカをはじめ、チヌ・メバル・
ガシラ・スズキなどが釣れ、7月の声を聞くと型のいいアジやカマス、また、「マルソウダ」と
呼ばれるカツオの一種も回遊してくるようになり、堤防も大賑わいの様相を見せるようになる。

瞳は車の中で「これ見て!」と云ってGパンの上をめくり、水着をみせた。
「今日は台風で、泳がれへんで」 の心配をよそに、
「大丈夫や」と云って水着姿になって外へ飛び出した。
「バシャーッ」波打つ音 ぬれる髪 海は荒れる 防波堤(ぼうはてい)で波をかぶりながらはしゃいでた。
海が大好きなんやなあ、この時ばかりは子供に(かえ)っていた。
「ビューッ」 風吹く音 なびく髪 空は(いか(る 雲行きが相当に怪しくなってきた。 
私たちが立ち去るやいなや 役所の方がすぐ立入禁止の札を立てた。



























想い出(つづ)り−2 ニューカドレニアへ行ったら? 
(cici)
9月も下旬に差し掛かる頃、瞳の49日法要(ほうよう)も無事終えた。
気持ちも徐々に落ち着いてきた、そんなある日、
瞳が生前に云っていた言葉を何となく思い出した。

「私、親孝行をしてなかったね。貯金あるからニューカレドニアへ行ったら?」
今まで自分の事で精いっぱいの子供だと思っていた娘が、
親のことを考えるようになったのかと、内心よろこび、嬉し涙がこみ上げた。
しかし、これが最初で最後の親孝行の言葉になるとは…。

瞳が勧めたニューカレドニアは、いったいどんなところなのか、
心に引っかかっていたのでインターネットで調べてみた。
さすが、海の好きな娘が云っていただけあって、海好きの人には夢の島である。
いつか余裕が出来、行く機会に巡りあえた時のためにと、ホームページの散策(さんさく)を…。

『ニューカレドニアは南太平洋に浮かぶフランス領。南北約460Km、東西約50Kmの
フランスパンに似た本島・グランドテール島と、美しい離島(りとう)並びに世界第2位の広さを
誇るサンゴ礁から成っている。総面積は日本の四国ぐらい。
この島には、他のビーチリゾートのような快適さや便利さはありませんが、
本当に美しい海と、我々が忘れてしまった人の暖かさがある。
首都はヌメア。美しくレイアウトされた町並みやフランス人入植(にゅうしょく)当時の歴史建造物など、
本場のパリでも見られるような、現代と古きよき時代の建物が混在(こんざい)した街です…』

うんうん、なるほど。素晴らしい写真や賛辞(さんじ)の説明文に夢が広がる。
ダイビングに、サーフィン…、瞳も一緒だったら、どんなに喜ばしい事か。

『ニューカレドニアが広く日本の人々に知られるようになったのは森村桂さんの小説
「天国に一番近い島」が始まりと云われ、その後、原田智代さん主演の映画「天国に
一番近い島」で一躍(いちやく)、若い人たちにもニューカレドニアが知られるようになりました。
現在でも、年間約25,000人の日本人観光客がこの島を訪れ、(たぐい)まれな美しい海や
サンゴ礁、純白なビーチなどを楽しんでいます…』

えっ、「天国にいちばん近い島!?」。一瞬、背筋がゾクゾクと寒くなった。
そう云えば以前、聞いた事がある。ニューカレドニアは「天国にいちばん近い島」と。
瞳は風光明媚(ふうこうめいび)で云ったのか、死を意識して云ったのか?
もしそうだったとしたら、どうしてメッセージに気づく事が出来なかったのか。
もし気がついていれば瞳を助けられたかも…。話したのは服薬した日だった。
ああ、思い巡らすと、心が痛んでならない。

奇しくも、「天国にいちばん近い島」の作者森村桂さんが数日後の9月27日に逝去。
天国に召された。



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