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暦をめくれば、そろそろ秋の気配。秋といえば華やぐ祭の季節。堺の秋祭りといえば、やはり堺発祥ともいわれるふとん太鼓とだんじりだ。
ふとん太鼓の祭りは正式には「八朔祭」。旧暦の8月1日(八朔)にちなんだ名で、新暦では九月上旬。豊作と豊漁を願い、感謝を込めて執り行われる泉州最初の秋祭りである。
神輿の上に積まれた五枚の赤いふとんは逆三角形を描き、四隅には大きな房が揺れる。そのふとん太鼓を六十人もの男たちが肩を寄せ合い、力強く担ぎ上げる。
響き渡るのは威勢のいい「ベーラベーラベラショッショイ」の掛け声と太鼓の音。太鼓台には稚児姿の子どもたちが乗り、囃子歌を唄いながら小さな手で太鼓を叩く。
法被姿の男たちの額には玉のような汗。きりりと結んだ口元に、真剣な眼差し。その姿は、若者も壮年も区別なく勇壮で美しい。
四隅の大房をどれだけしなやかに、豪快に振るか……それが見どころだ。房が風を切り、赤いふとんが空に映え、祭りの熱気が道を染めていく。
そういえば、20数年前のこと。娘が友達と、この八朔祭を見に行ったことがあった。お気に入りの男子でもいたのだろうか。帰宅した娘の頬が、ふと朱に染まっていたのを覚えている。
あれから季節は幾度も巡り、今はもう、娘の笑顔は遠い空の彼方。それでも、ふとん太鼓を見るたび、私は思う。
――あの子の目にも、この揺れる赤と、踊る房と、熱気の中を進む男たちの姿が、まぶしく映っていたのだろうかと。
祭り囃子が聞こえてくると、胸の奥で何かが小さく鳴る。懐かしさと、切なさと、そして、確かな温もりを連れて。
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※慕嬢詩(ボジョウシ)=亡くした娘を慕う気持を綴った詩・文。私の創作語。
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