hitomi's poetry
想い出綴り−27 本立て
cici

私の机の上に瞳が小学校の工作の授業で作った木製の本立てがある。
馴れないノコで切ったカット面は少し波打っているが味わいがあっていい。
板の面に残った鉛筆で引いた墨付けの線に真剣さがうかがえる。
釘は行儀よく間隔をあけて並んでいてしっかりと打ち込んでいる。
小学生の女の子にしては、なかなか上手に仕上げている。
瞳にノコギリや金づちの使い方などを直接教えたわけではないが、私の影響が大いにあると思う。
私は日曜大工が好きで、若い頃は棚や本箱や下駄箱や椅子などを作ったり、ベランダに1畳半ほどの書斎を作ったりした。
その時にそばで見ていた幼い瞳はメジャーを持ったり、釘や道具を取ってくれたりと手伝ってくれた。
私が一生懸命に打ち込んでいる姿を見て、瞳は「どんなんが出来るのかなあ」と目を輝かせていたのを覚えている。
自分で言うのはおこがましいが器用な方で、私の血を受け継いでいるところがうれしい。
瞳は猫をとても可愛がっていたので、本立てには猫の写真を貼っている。
机の上の木製の本立ては、瞳を偲ぶ思い出のひとしなである。
そのペーパーで磨き上げた木の表面はなめらかで瞳の肌のようだ。
そして、その木のぬくもりが瞳を感じる。
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想い出綴り−26 まどろみ
cici

3月の半ばの朝方はまだ寒い。
だから仕事を終えて家に帰るとすぐさまコタツに入り足元を温める。
やがて温もりが身体をポカポカと包み、疲れた心身を癒やしてくれる。
お酒に酔っている時は少しの間、その優しさに負けてとろとろと眠ってしまう。

春うららかな昼下がり、近くの遊歩道を手を繋いで歩く親子連れがいる。
よく見ると私と瞳だ。
瞳は大きな桜の木を見ながら、ひらひらと舞い落ちる花びらに手をのばしてはしゃいでいる。
私は娘の嬉しそうに喜んでいる姿を見て、しばしほくそ笑んだ。

そういえば瞳も幼い頃、テレビを見ているうちにコタツの中でまどろんだ。
私はコタツ布団を首までかけてやり、そっと寝顔をのぞき込んだ。
そしてその小さな手を握り「すこやかに育て」と小さくつぶやき、栗色の髪をそっと撫でてやった。
どんな夢を見ているのだろうか、頭の中をのぞいてみたいと思った。

また瞳が小六の時、マニュキュアを塗ったので叱っている私がいた。
色つきではなく透明のマニュキュアだ。
妻はそれくらいだったらいいのではと私をたしなめたが、なぜか許さなかった。
いま思えばもう少し理解してあげればと悔やんだ。悔やんでいるうちに現実に引き戻された。

まどろみから覚めると身体の中に気怠さが残っていて、眠るでもなく起き上がるでもなく、
コタツの中でぼんやりしながら、うっすらとした記憶を辿っては遠い昔を懐かしんだ。




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