hitomi's poetry

想い出綴り−30　ビール cici 　こう蒸し暑い日が続くとビールの味は格別である。喉越しにググーッと伝わる清涼感は なんともいえない。 　特に風呂上がりや仕事の後に冷えたビールを飲むと、その清涼感が五臓六腑に染みわ たる感じで疲れも吹っ飛ぶ。 　そんな味わいを知っている私はビール党で、どんな料理でもビールを飲む。フランス料 理でも和食料理でも中華・韓国料理でも注文するのはビールだ。 　今でこそ歳のせいでアルコールが弱くなり、家ではほとんど飲まなくなったが、昔はお茶 代わりに朝からでもビールを飲んでいた。 　そういえば瞳が赤ちゃんの頃、私がテーブルでビールを飲んでいると膝の上にちょこん と座り、興味深く見つめては私のビールを欲しがっていた。 　私はいたずらっぽく瞳の口にビールを持っていくと、小さな両の手でグラスを持ちグラス の淵を舐めた。その時のしかめた顔がお茶目で可愛かった。 　フッと一息をついてビールの泡を見ていると、梅雨明けの黄昏にも似たほろ苦くも甘酸っ ぱい瞳の思い出に浸る自分がいる。 ●composition-topへ戻る

想い出綴り−31　テキーラ 　先日、フィリピン人の女性のお客さんが来店してテキーラを注文したが、 在庫がなかったので次回来た時に取り揃えて置くようにと頼まれた。 　次の日に酒屋へ行き、色々なテキーラを探しているうちに、娘がテキーラが 好きだったのをふと思い出した。以前、娘の友達がテキーラを仏前や墓前に 供えてくれていたので尋ねたら、「瞳ちゃんが好きやったから」と教えてくれた ことがあった。 　テキーラはキツイと聞いていたので私は飲んだ事が無かった。それなのに 瞳は飲んでいたので「キツイお酒を飲んで、俺より強いんやなあ」と、その時 つくづく思った。 　私が選んだのはメキシコの2大テキーラ･メーカーと謳われているサウザ社の サウザ・ゴールド、瞳が愛飲していた銘柄だ。お客さん用とは別に、1本余分に 買った。 　ワン・ショットをグラスに注ぎ匂いを嗅ぐと、鼻の奥に鮮烈なアロマが漂った。 次に一口含んだ。舌先をしびれさす刺激的かつ芳醇なティストが身体が熱くする。 　グラスに残ったテキーラを見つめていると、陽気なメキシコの香りが漂う透明の 液体の中に、ニコリと微笑む瞳の顔が映った。 　「お父さん、かんぱーい！」 　なんとなく、そう聞こえたので嬉しくなり2杯目も一気に飲み干した。

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