hitomi's poem

hitomiの詩 part48 マニキュア



 瞳は小さな頃からオシャレに興味を持っていた。
 小六の夏休みに初めて小さな爪にマニキュアを塗った。
 細長い指先が透明のマニキュアでつやつやと輝いていた。
 それは女の子として、ほんの少しのオシャレでした。
 しかし、色は透明だったが妻は「まだ早い」と注意をした。
 学校の規則や世間体とかを気にした私も一緒になって叱った。

 それから13年経った初夏の昼下がり、私は瞳の部屋を片づけていた。
 そして沢山あった瞳の遺品の中から黒い化粧箱を見つけた。
 ラメ入りやパールピンクやレッド、ローズ、ホワイト…
 その中には色どり華やかなマニキュアが仕舞ってあった。
 これらを見て私は、瞳の小六の時の悲しそうな顔を思い出した。
 「ああ、マニキュアが好きやったんやなあ」
 あの時、叱らないでもう少し自由にさせてあげたらよかった。
 ちっちゃな事で瞳を殻に閉じ込めてしまったなと反省をした。

 マニキュアを見ていると、ある思いがふと脳裏をよぎった。
 病室のベッドで臥せる瞳の指に最期のマニキュアをしてあげたかった。
 一本ずつ愛おしむように、マニキュアを塗ってあげたかった。
 そして指を絡ませて手を繋ぎ、冷たくなった瞳の手を温めてやりたかった。
 あの時、化粧箱にあった使いかけの透明のマニキュアが、何故か私の胸を締めつけた。

 一句:愛し子が ちょっと背伸び マニキュアで



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